少し、想像しづらい話をします。でも、社長の家族にとっては、いちばん現実的な話です。
もしあなたに万一のことがあったら、奥さん(またはご家族)は、悲しみの中で、こんな問いに直面します。
「会社って、どうなるの? 続けるの? 畳むの?」
「従業員さんたちのお給料は、どうやって払うの?」
「どこの銀行と取引していたの? 借入は?」
「取引先に、誰が、何て連絡すればいいの?」
「そもそも……誰に相談すればいいの?」
会社のことを何も知らされていない家族にとって、これは真っ暗な山道に、地図なしで放り出されるようなものです。
エンディングノートとの、大事な違い
「そのために、エンディングノートがあるのでは?」――半分、正解です。書店で売っているエンディングノートは、立派な備えです。ただ、社長という立場には、2つの点で足りません。
1つめ、会社の情報は多すぎて、ノートに書ききれない。口座や保険の一覧は書けても、「A社との付き合い方」「あの機械のクセ」「従業員それぞれの得意なこと」までは、とても手が回りません。でも家族と後任が本当に困るのは、そういう「日々の運転方法」なのです。
2つめ、書いた日から古くなっていく。エンディングノートは、たいてい一度書いて満足し、引き出しで眠ります。5年前に書いたノートの取引先一覧は、もう半分入れ替わっているかもしれません。
例えるなら、エンディングノートは「最後の手紙」。会社のおまもりは「毎日更新される、家族への地図」です。手紙と地図は、両方あっていい。役割が違うのです。

ふだんのおしゃべりが、そのまま家族への地図になる
会社のおまもりの使い方は、これまでの記事で書いてきた通り、AIと話すだけです。ここで大事なのは、「家族のために特別な作業をしなくていい」ということです。
日々、仕事のことをAIに話す。それだけで、会社の取扱説明書が育ちます。項目には「家族向け」という印を付けられるので、「もしもの日に家族がまず読むべきページ」が自然に集まっていきます。
さらに、あなたの考え方や歩みも記録されていくので、家族は「お父さんなら、こう決めたはず」という判断の手がかりまで受け取れます。会社を続けるにせよ、誰かに託すにせよ、畳むにせよ――決めるのは家族でも、判断の材料はあなたが残せるのです。
紙の一冊も、あわせてどうぞ
デジタルが苦手なご家族には、紙をおすすめします。たまった説明書は、印刷ボタンひとつで冊子になります。
年に一度、たとえば年末に印刷して、「これ、うちの会社の説明書。何かあったらこれを読んで」と一冊渡しておく。それだけで、真っ暗な山道に、明かりがひとつ灯ります。

いちばんの贈り物は、「困らせないこと」
家族への贈り物というと、財産や保険を思い浮かべます。もちろん大事です。でも、社長の家族に聞くと、本当の願いはもっと素朴です。
「困りたくない。何がどこにあって、誰に聞けばいいのか、それだけでも知っておきたい」
会社のおまもりは、その願いに応える道具です。あなたが毎日5分しゃべるだけで、家族は「もしもの日」に迷わない地図を手にします。そしてその地図は、もしもの日が来なくても、家族の安心として、毎日そこにあり続けます。
愛情の形は、いろいろあります。「困らせない準備」は、その中でもいちばん静かで、いちばん深いものだと思います。
おすすめの習慣:「年に一度の30分」
最後に、ご家族と一緒にやってほしい習慣をひとつ提案します。年に一度、30分だけ。年末でも、お盆でも、結婚記念日でも構いません。
1. その年の説明書を印刷して、1冊にする(10分)
2. 奥さん(ご家族)に手渡して、目次だけ一緒に眺める(10分)
3. 「もし何かあったら、まずこの3人に連絡してね」と、頼れる人の名前だけ口頭で伝える(10分)
全部読んでもらう必要はありません。「地図がある」ことと「地図のありか」さえ知っていれば、家族はもう真っ暗な山道に放り出されません。
この30分には、おまけの効果もあります。会社の話を年に一度でも家族とすることで、「会社はいま、こういう状況なんだ」という安心感が家庭に生まれます。多くの社長さんは、家族に心配をかけまいと仕事の話をしません。その優しさが、逆に「何も知らされていない不安」を生んでいることがあります。年に一度の30分は、その両方をほどく時間です。
今年の分の1冊目は、話し始めてから1か月もあれば作れます。次の節目の日を、最初の「手渡しの日」にしてみませんか。
この記事のまとめ
・もしもの日、家族は「地図なしの山道」に放り出される
・エンディングノートは最後の手紙。おまもりは毎日更新される家族への地図
・家族のための特別な作業は不要。ふだんの仕事の話が、そのまま地図になる
・年に一度の30分、印刷して手渡すだけで、家族の不安は大きく減る
この記事は、社長ご本人だけでなく、社長の奥さん・ご家族にも読んでいただきたくて書きました。もしあなたが家族の側で、「うちの人、会社のことを何も残していないのでは」と感じているなら、この記事をそっと見せてあげてください。「あなたに万一のことがあったら困るから」は、照れくさい話題です。でも「1日50円で、話すだけらしいよ」なら、切り出せるかもしれません。
家族の安心は、社長の安心でもあります。どうぞ、夫婦の話題にひとつ、加えてみてください。その一言が、ご家族の10年先の、大きな安心につながります。

