クレームはチャンス——対応次第でお客様がファンに変わる理由

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事務所の電話が鳴る。出ると、先週作業したお客様の、少し硬い声。

「あのね、ちょっと言いにくいんだけど……窓のサッシ、汚れが残ってたわよ」

——胃のあたりが、きゅっとなりますよね。クレームの電話が好きな人なんて、この世にいません。

でも今日は、あえてこう言わせてください。そのクレーム、実は宝くじの当たり券です。気休めでも、精神論でもありません。数字と理屈で説明できる、商売の話です。

目次

本当に怖いのは「何も言わずに消えるお客様」

クレームを言ってくれる人は約1割という氷山の図解

まず、知っておいてほしい事実があります。

サービスに不満を持ったお客様のうち、わざわざクレームを言ってくれる人は、ほんの一握りだということです。有名な調査では、不満客のうち声を上げる人は1割にも満たないと言われています。

では、残りの9割はどうするのか。何も言わずに、黙って他社に乗り換えます。そして……ここからが怖いところですが、ご近所や知人には、しっかり話すんです。「あそこに頼んだけど、イマイチだったわよ」と。

つまり、不満を持ったお客様には2種類いるのです。

  • 黙って去る人——こちらは気づくことすらできず、挽回のチャンスはゼロ。悪い評判だけが静かに広がる
  • 言ってくれる人——不満の中身を教えてくれて、挽回のチャンスまでくれる

そう考えると、クレームの電話は「文句」ではなく「敗者復活戦への招待状」です。しかもその招待状は、「この会社なら言えば直してくれるはず」と、まだ少し期待してくれている人にしか届きません。本当に見限った人は、電話すらくれないのですから。

対応がうまくいくと、クレーム前より仲良くなれる

もうひとつ、面白い法則があります。マーケティングの世界で「グッドマンの法則」と呼ばれる有名な調査結果で、ざっくり言うとこうです。

「クレームを言って、その対応に満足したお客様は、最初から何も問題がなかったお客様よりも、リピーターになりやすい」

不思議に聞こえますが、思い当たる節はありませんか?友達とケンカして、ちゃんと仲直りできたら、ケンカする前より仲良くなった——あの現象です。

何も問題がないうちは、お客様はあなたの会社の「本気」を見たことがありません。でもトラブルが起きたとき、逃げずに、ごまかさずに、誠実に対応する姿を見たお客様は、こう思うのです。「この会社は、いざというとき信頼できる」と。

晴れの日には、傘の本当の価値はわかりません。雨の日の対応こそが、会社の実力を見せる唯一の舞台なんです。

ファンに変える対応・3つの鉄則

ファンに変える3つの鉄則の図解

では、具体的にどう対応すればいいのか。鉄則は3つだけです。

鉄則1: とにかく「速さ」がすべて

クレーム対応の満足度は、対応の中身よりスピードで決まります。連絡を受けたら、まず1時間以内に折り返す。可能なら当日、遅くとも翌日には現地へ。「すぐ来てくれた」という事実だけで、お客様の怒りは半分以下になります。逆に「後日改めて」と数日置くと、小さな不満が立派な怒りに育ちます。クレームは生鮮食品と同じ、時間との勝負です。

鉄則2: 言い訳の前に、まず受け止める

現場に着いて言ってはいけない言葉があります。「いや、これは元々の傷でして」「うちの作業範囲ではないんですが」——たとえ事実でも、最初のひと言にしてはいけません。お客様がまず欲しいのは、正しい説明ではなく「不快な思いをさせてしまい、すみません」という受け止めです。事実関係の説明は、気持ちを受け止めたあとにすれば、ちゃんと聞いてもらえます。順番がすべてです。

鉄則3: 直して終わりにしない。「記録」と「後日フォロー」まで

やり直し作業をして「では失礼します」——ここで終わると、80点止まりです。100点の会社は、そのあと2つのことをします。

ひとつは記録。「どのお客様から・いつ・どんな指摘を受け・どう対応したか」を残します。同じお客様に同じミスを二度やったら、次はもう招待状は届きません。「このお客様はサッシの仕上がりを特に気にされる」という記録は、次回作業の最強のチェックリストになります。

もうひとつは後日フォロー。1〜2週間後に「その後、いかがですか?」と一本電話やハガキを入れる。この瞬間、お客様の中であなたの会社は「クレームを付けた会社」から「最後まで気にかけてくれた会社」に変わります。

「言ってもらいやすい会社」になる小さな工夫

ここまでは「クレームが来たとき」の話でした。でも一歩進んだ会社は、クレームを待たずに、こちらから取りに行きます

方法は簡単です。作業完了の確認のとき、「お気づきの点はございませんか?」で終わらせず、こう聞くのです。

「もし気になるところが1か所でもあれば、遠慮なくおっしゃってください。今なら道具も出ていますので、すぐ直せます」

「遠慮なく」「今なら」——この2つの言葉が、お客様の「これくらい言わないでおこうかな」という遠慮のフタを開けてくれます。その場で言ってもらえれば、その場で直せる。後日の気まずい電話は永遠にかかってきません。つまりこれは、クレームの前借りです。同じ指摘でも、後日なら「クレーム」、その場なら「仕上げの注文」。呼び名も気持ちもまったく違います。

数日後のお礼ハガキに「その後、気になる点はございませんか?」と一文添えるのも効きます。声を上げやすい窓口を用意している会社には、黙って去る9割のうちの何人かが、去る前に声をかけてくれるようになります。

クレームは「会社を無料で診断してくれるコンサルタント」

最後に、視点をもうひとつ。

クレームを記録として貯めていくと、あるとき気づきます。「あれ、サッシの指摘、この半年で3回目だ」——それは、特定のお客様の問題ではなく、自社の作業手順の穴です。チェックリストにサッシの項目を足せば、未来のクレームがまとめて消えます。

コンサルタントに頼めば何十万円もかかる「会社の弱点診断」を、お客様が無料で、しかも実例付きでやってくれている。そう考えると、クレームの記録は会社の財産そのものです。

次にあの「言いにくいんだけど……」の電話が鳴ったら、胃を痛める前に思い出してください。それは敗者復活戦の招待状であり、無料の経営診断であり、対応次第で一生もののファンを作るチャンスなのです。

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この記事を書いた人

創業45年になる有限会社クリンシアの2代目代表。マットモップレンタル事業、ビルメンテナンス清掃事業、家庭用洗剤、次亜塩素酸水製造販売事業、ナノテックシステム導入支援事業、清掃用具関連販売事業、清掃業務に関するコンサルティング事業などをしています。 また飲食店事業としてテイクアウトカフェの運営も行っています。

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