7月、8月。エアコンクリーニングの依頼が鳴りやまず、スケジュール帳は真っ黒。体はクタクタだけど、売上は絶好調——清掃業の夏は、まさにお祭りです。
そして9月。ぱたっと電話が鳴らなくなる。
「まあ、毎年こんなもんだよね」と、少し寂しい売上表を眺めながら秋を過ごす。……この「夏の花火パターン」、心当たりはありませんか?
今日の話は、シンプルです。夏に出会ったあの大勢のお客様を、打ち上げ花火で終わらせず、「来年も咲く花」に変える方法。しかも、繁忙期が終わった直後の、ほんのひと手間でできることばかりです。
繁忙期の売上には「2種類」ある

同じ100万円の夏の売上でも、中身には2種類あります。
- 花火型: 今年限りの単発売上。来年もまたゼロから集客し、広告費を払って新しいお客様を探す
- 球根型: 今年の売上が土に残り、来年は向こうから「今年もお願いね」と芽を出してくれる
畑にたとえてみましょう。夏の繁忙期は、収穫祭です。トラック何台分も収穫できた。ここで農家さんなら、必ずやることがあります。来年のための種まきです。収穫だけして畑を放置する農家はいません。
ところが清掃業では、収穫(=夏の売上)に大満足して、種まきをせずに秋を迎える会社がとても多い。もったいない話です。だって、夏のあなたの手元には、「今年、実際にお金を払ってくれた人の名簿」という、何よりも上等な種が山積みになっているのですから。
広告で集める見込み客と、一度あなたの仕事ぶりを見たお客様。来年注文をくれる確率が高いのは、圧倒的に後者です。新規のお客様を1人つかまえるコストは、既存のお客様に再注文してもらうコストの5倍かかる——マーケティングの世界の有名な法則です。
9月にやる「種まき」3点セット

では具体的に何をするか。繁忙期の熱が冷めないうちにやる仕込みは、この3つです。
種まき1: お礼ハガキで「記憶に鍵をかける」
夏に作業したお客様全員に、9月中にお礼ハガキを出します。文面はシンプルで構いません。
「この夏はエアコンクリーニングをご依頼いただき、ありがとうございました。フィルターは月1回、掃除機で軽くお手入れいただくと効きが長持ちします。来年も快適な夏をお過ごしいただけるよう、お手伝いできれば嬉しいです。」
人の記憶は、放っておくと3か月で薄れます。名前も、会社名も、満足した気持ちさえも。お礼ハガキは、その記憶が消える前に「良い思い出」として鍵をかける作業です。85円で、来年の指名につながる保険だと思えば安いものです。
種まき2: 「来年の先約」を今のうちに取る
作業後の満足度が高かったお客様には、もう一歩踏み込みます。
「来年は、混み合う前の5月頃にご案内のご連絡を差し上げましょうか?」
これだけです。お客様は「あら、じゃあお願いしようかしら」と言うだけで、来年の予約待ちリストに載ります。お客様にとっては「来年は探さなくていい」という安心、あなたにとっては「来年の閑散期に確定見込みがある」という安心。両方が得をする、営業ではなく「約束」です。
10件約束できれば、来年の5月は広告費ゼロで10件からスタートです。
種まき3: 「夏の記録」を書き残す
そして、種まき1と2を来年ちゃんと実らせるために、いちばん大事なのがこれです。繁忙期の記憶が新しいうちに、お客様ごとにひと言ずつ記録します。
- 「エアコン3台(リビングは天井埋込型)。カビ多め。来年5月に連絡の約束」
- 「小さいお子さんあり。洗剤は低刺激希望。ご主人は土日しか在宅せず」
- 「2階の室外機は狭所で+30分かかる。ハシゴ必須」
この1行があるだけで、来年の連絡は「営業電話」ではなく「約束の続き」になります。「昨年はリビングの埋込型がだいぶ汚れていましたが、その後いかがですか?」——この一言が言える会社に、相見積もりは来ません。
「秋の売上」まで生まれるおまけ付き
実はこの種まき、来年を待たずに芽が出ることがあります。
夏のエアコン作業のとき、あなたはお客様の家の中を見ています。「浴室のカビがかなり育っていたな」「レンジフードが限界だったな」——プロの目には、次の仕事の種がすでに見えているはずです。
お礼ハガキや電話のついでに、「そういえば作業の際、浴室のカビが気になりました。年末の混み合う前の秋にキレイにしておくと、大掃除がぐっと楽になりますよ」とひと言添える。これだけで、9月・10月の谷を埋める仕事が生まれます。夏のお客様は、夏だけのお客様ではないのです。
そろばんを弾いてみる: ハガキ100枚は8,500円の投資
「言いたいことは分かるけど、忙しかったあとにそこまでやる気力が……」という方のために、そろばんを弾いてみましょう。
仮に、この夏エアコンクリーニングをしたお客様が100件だとします。全員にお礼ハガキを出すと、費用は85円×100枚=8,500円。宛名書きが大変なら、文面は印刷にして宛名と最後の一言だけ手書きでも構いません。作業時間は、テレビでも見ながらやれば2〜3時間です。
このうち、来年「またお願いね」と指名してくれる人が1割増えたらどうなるでしょう。10件×単価15,000円=150,000円。さらに「来年5月の先約」が10件取れれば、来年の閑散期に確定売上が乗ります。秋の追加仕事(浴室・レンジフード)が5件生まれれば、それだけで数万円。
8,500円と数時間の投資で、これだけのリターンが狙える営業を、私は他に知りません。チラシ1万枚(印刷と配布で十数万円)の反響が数件、という世界と比べれば、その差は歴然です。
ポイントは、この投資は「今年作業したお客様がいる会社」にしかできないということ。つまり、忙しい夏を乗り切ったあなたの会社だけが持っている、期間限定の権利なんです。
繁忙期の本当の成果は「売上」ではなく「名簿」
夏の忙しさは、体力的には大変です。でも見方を変えれば、繁忙期とは「未来のお客様候補と、いちばんたくさん出会える季節」です。
今年の夏の売上は、もう確定しました。でも、今年の夏に出会ったお客様が「花火」になるか「球根」になるかは、これからのひと手間で決まります。
スケジュール帳に少し余白が戻ってきたら、まずは夏のお客様リストを眺めてみてください。そこはただの作業履歴ではなく、来年の売上が眠っている畑なのですから。


