「創業のいきさつ? 乗り越えたピンチ? そんな昔話を残して、何になるの。飯のタネにはならんでしょう」
そう思った方にこそ、今日の記事を読んでほしいのです。結論から言います。会社の歴史は、営業と採用と値決めに効く「信頼の在庫」です。昔話ではなく、売り物の一部なのです。
八百屋の「うちのトマトはね」の話
スーパーのトマトと、八百屋のおじさんが「うちのトマトはね、◯◯さんって農家が朝採りしたやつでね、去年の台風のときも……」と語ってくれるトマト。同じ値段なら、どちらを買いたくなるでしょうか。
味は同じかもしれません。でも、物語の付いた商品は、選ばれます。人は、モノだけでなく「誰が、どんな思いでやっているか」を買っているからです。
これは会社も同じです。「創業40年、親子二代でやってます」「あの大不況のとき、こうやって乗り切りました」――この物語は、あなたの会社の商品やサービスに付く、見えない値札です。そして、この値札は大手には絶対に真似できません。歴史は、後からお金で買えない唯一の資産だからです。

歴史が効く3つの場面:営業・採用・値決め
場面1:営業。新規のお客様が業者を選ぶとき、最後の決め手は「信頼できそうか」です。ホームページに創業の物語、仕事への考え方、歩んできた道のりが書いてある会社と、料金表しかない会社。相見積もりで並んだとき、物語のある会社が選ばれます。
場面2:採用。いまの求職者は、応募の前に必ず会社を検索します。そこに「社長がどんな人か、どんな思いでやっている会社か」が見えるかどうかで、応募のハードルが変わります。給料の額で大手と勝負はできなくても、物語の濃さでは中小企業が勝てます。
場面3:値決め。これが意外と大きい。歴史と実績が語れる会社は、安売り競争から降りられます。「よそより高いですね」に対して、「うちは40年、この仕事一筋です。◯◯のときも△△で対応してきました」と語れるかどうか。物語は、値引きの代わりになるのです。
問題は、歴史が「社長の頭の中」にしかないこと
ここで、いつもの問題にぶつかります。あなたの会社の物語は、いまどこにありますか。
ほとんどの会社で、答えは「社長の頭の中」です。飲み会で聞けば面白い話がいくらでも出てくるのに、文字としてはどこにも存在しない。だからホームページにも載らず、求人票にも書かれず、営業トークは社長しかできない。売り物になるはずの在庫が、倉庫から出せない状態です。
「会社のおまもり」で日々話していると、この在庫が自然と言葉になっていきます。創業のいきさつ、忘れられない仕事、ピンチの記録。AIとの雑談で語られた物語は、清書されて、いつでも取り出せる形になります。
そして、取り出せる形になった物語は、ホームページの「会社案内」に、求人票の「社長からのメッセージ」に、営業資料の1ページに、転用できます。一度話せば、何度でも使える。これが「在庫」と呼ぶ理由です。

物語の残し方:自慢話でいい
「歴史を語るなんて、照れくさい」という方へ。コツをひとつだけ。自慢話のつもりで話していいのです。
・この会社を始めたとき、まわりに何と言われたか
・最初のお客様は誰で、どんな仕事だったか
・いちばん苦しかった時期と、何で乗り切ったか
・「これだけは曲げなかった」というこだわり
・お客様や従業員に言われて、うれしかった一言
この5つを話せば、会社の物語の柱は立ちます。1つ5分、合計25分。酒の席で何十回も話してきた内容のはずですから、原稿は要りません。いつもの調子でどうぞ。AIは笑うところでちゃんと相槌を打ちながら、きれいにまとめてくれます。
そして、この物語はもうひとつの役割を持ちます。従業員が読むと、会社への見方が変わるのです。「うちの会社、そんな歴史があったのか」。給料だけでつながる職場と、物語を共有する職場。人が長く働きたくなるのは、後者です。
よくある質問
「うちには語るほどの歴史がありません。まだ10年です」――10年続いた会社は、開業した会社の半分以下しか残っていない生存者です。始めた理由、最初の1年の苦労、続いてきた理由。10年分で十分に物語です。それに、記録は今日から未来の歴史も貯めていきます。20周年のとき、この10年目の記録が宝物になります。
「失敗談は、お客様に見せて大丈夫ですか」――乗り越えた失敗は、隠すより語るほうが信頼されます。「うちは失敗したことがありません」より「◯◯で失敗して、それ以来こうしています」のほうが、誠実で強い。ただし、取引先に迷惑をかけた話は相手が特定されない形で。そこだけ気をつければ、失敗談は最高の信頼材料です。
この記事のまとめ
・歴史は昔話ではなく、営業・採用・値決めに効く「信頼の在庫」
・物語の付いた商品は選ばれる。歴史は大手が真似できない唯一の資産
・問題は在庫が頭の中にあること。話して言葉にすれば、何度でも転用できる
・残し方は自慢話でいい。5つのお題×5分で、物語の柱が立つ
あなたが何十年もかけて積んできた物語は、思い出であると同時に、まだ値札の付いていない商品です。今日、その最初の1ページを、いつもの自慢話から始めてみませんか。
そして、この物語づくりには締め切りがないようで、あります。物語をいちばん豊かに語れるのは、体験した本人だけ。あなたが語れるうちに録っておいた物語は、会社が続く限り、営業で、採用で、そして次の代の誇りとして働き続けます。酒の席で消えていくには、もったいなさすぎる話ばかりのはずです。今夜の晩酬のお供に、まずは「創業のいきさつ」の5分から。グラス片手のいつもの調子で、どうぞ。

