9月です。台風の季節です。私たちの会社は宮崎県にあるので、この季節の空模様には毎年鍛えられています。
台風が近づくと、社長の頭はフル回転します。現場を早めに切り上げるか。明日は休みにするか。資材は縛ったか。お客様への連絡は。従業員の帰り道は大丈夫か。
では、質問です。その判断、社長と連絡が取れなかったら、誰がどう決めるのでしょうか。
災害の日は、「社長に聞けない日」でもある
災害時にいちばん起きやすいことは、実は停電でも浸水でもありません。「連絡が取れない」です。電話が混み合ってつながらない。社長自身が移動中、あるいは自宅の対応で手が離せない。
つまり災害の日は、ふだん「社長どうします?」で回っている会社にとって、頭脳と切り離される日なのです。
「明日、現場に行くんですか? 中止ですか?」
「事務所のシャッター、誰が閉めるんですか?」
「停電でレジが動きません。手書きでやっていいですか?」
「お客様から問い合わせが来ています。何て答えれば……」
ひとつひとつは小さな判断です。でも、決める人がいないと全部が止まる。そして従業員は、つながらない社長の電話を鳴らし続けることになります。
学校の避難訓練が教えてくれること
ここで思い出してほしいのが、小学校の避難訓練です。
「おかしも(押さない・かけない・しゃべらない・もどらない)」「校庭の南側に集合」「先生が点呼」。子どもたちがあの日スムーズに動けるのは、判断が速いからではありません。決めごとが先に決まっていて、全員が知っているからです。
会社の災害対応も、まったく同じ理屈でできています。立派な防災計画書はいりません。必要なのは、「こういうときは、こうする」という決めごとが、社長の頭の外に出ていることです。

残しておきたい「災害の決めごと」5点セット
では、何を残せばいいのか。難しく考えなくて大丈夫です。台風前夜のあなたの頭の中を、そのまま言葉にするだけです。最低限の5点セットを挙げます。
1.休みの決め方。「警報が出たら現場は中止」「電車が止まったら出社しない」など、あなたがいつも使っている判断基準。基準さえあれば、従業員は自分で決められます。
2.戸締まり・片付けの手順。シャッター、資材の固定、パソコンの電源、水回り。「台風前にやること」を順番に。毎年やっているのに、毎年社長が口頭で指示していませんか。
3.停電のときの仕事のやり方。レジが止まったら、機械が止まったら、手作業でどうしのぐか。復旧したら何を確認するか。
4.連絡の順番。誰が誰に、何を連絡するか。従業員の安否確認は誰がまとめるか。お客様への連絡は誰の担当か。
5.頼れる連絡先。電気屋さん、水道屋さん、保険の担当者、大家さん。「困ったときに電話する相手」の一覧です。

防災の記録は、「もしもの日」の予行練習になる
お気づきでしょうか。この5点セット、実は社長が入院した日にも、そのまま効きます。
災害対応の記録とは、つまり「社長に聞けない日に、会社がどう動くか」の記録です。台風は毎年来るので練習台にちょうどいい。そして台風で鍛えた「社長に聞かなくても動ける力」は、もっと大きなもしもの日に、そのまま会社を守ります。
逆に言えば、毎年台風のたびに社長の電話が鳴りやまない会社は、もっと大きな「連絡が取れない日」への備えが、まだできていないということです。台風は、会社の避難訓練なのです。
作り方は、台風前夜のひとりごとを話すだけ
「会社のおまもり」での作り方は簡単です。次の台風が近づいてきた日、準備をしながら考えていることを、そのままAIに話してください。
「明日は警報が出そうだから現場は中止。この判断はいつも、朝6時の時点の警報で決めてる。中止のときは俺が班長に電話して、班長からみんなに回す。事務所は最後に出る人がシャッター閉めて、資材はロープで……」
この2分のひとりごとを、AIが「災害時の対応」のページに清書します。台風が過ぎたら、「今回うまくいかなかったこと」もひとこと追加。2〜3回の台風を越えるころには、あなたの会社の防災マニュアルは、どんな市販のテンプレートより実戦的なものになっています。
今年の台風を、ただの厄介ごとで終わらせず、会社を強くする練習台に。準備のひとりごとを、今夜ひとつ録ってみませんか。
よくある質問
「BCP(事業継続計画)を作れと言われていますが、これで代わりになりますか」――正式なBCPの様式が必要な場合(取引先や行政への提出など)は、専用の書式が要ります。ただ、BCPがいちばん失敗するのは「立派な書類を作ったが、誰も読まず、更新もされない」というパターンです。この記事の5点セットは、いわばBCPの中身、生きている部分。まず中身を日常の言葉でためておけば、様式が必要になったときの下書きにもなります。
「停電したら、そもそも記録も見られないのでは?」――いい質問です。スマホは停電でも動きますし、携帯電話の回線は復旧が早いのが普通です。さらに心配な方は、災害対応のページだけ印刷して事務所に貼っておくのがおすすめです。よく見るページを紙でも持つ。デジタルと紙の合わせ技が、災害には一番強い形です。
「うちは災害の少ない地域ですが」――台風・地震・大雪・大雨。日本に「災害と無縁の地域」はありません。それに、この5点セットの本質は災害対応ではなく「社長に聞けない日の対応」。インフルエンザで社長が1週間寝込む日は、どの地域にも平等にやってきます。
この記事のまとめ
・災害の日は「社長に聞けない日」。連絡が取れないだけで会社は止まる
・避難訓練と同じで、決めごとが先に共有されていれば、みんな自分で動ける
・残すのは5点:休みの基準・戸締まり手順・停電時の仕事・連絡の順番・頼れる連絡先
・台風は毎年来る「会社の避難訓練」。ここで鍛えた力が、もしもの日に効く
台風前夜の頭の中は、あなたの会社の危機対応の教科書です。今年はそれを、頭の外に残してみてください。来年の台風から、電話が減ります。

