「あの人しか知らない」が会社を止める――属人化という時限爆弾

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「あの人しか知らない」が会社を止める――属人化という時限爆弾

「その件は、佐藤さんに聞かないと分からないなあ」

会社で、こんな言葉を聞いたことはありませんか? あるいは、言われる側の「佐藤さん」が、あなた自身かもしれません。

今日は、小さな会社にほぼ必ずひそんでいる「静かな時限爆弾」の話です。むずかしい言葉で属人化(ぞくじんか)と言いますが、中身はとても単純です。

属人化とは、「金庫の暗証番号を1人しか知らない」こと

属人化とは、ある仕事のやり方を、特定のひとりしか知らない状態のことです。

例えるなら、会社の金庫の暗証番号を、たったひとりしか知らないようなもの。その人がいる間は、何の問題もありません。金庫は毎日ちゃんと開きます。だから誰も気づかないのです。

問題は、その人がいなくなった日に、初めて爆発します。

・請求書のつくり方は、経理の奥さんしか知らない
・あの機械の直し方は、工場長しか知らない
・A社の担当者の連絡先と「話の通し方」は、営業の田中さんしか知らない
・そして、会社全体のことは……社長しか知らない

これ、どれかひとつでも当てはまったら、その部分は「暗証番号を1人しか知らない金庫」です。

悪気はゼロ。だからこそ、こわい

大事なことなので先に言っておくと、属人化は誰のせいでもありません

仕事は、毎日やっている人のところに自然と集まります。毎日やっている人は、どんどん上手になります。上手になるほど「その人に任せたほうが早い」となって、ますますその人しかできなくなる。悪気ゼロのまま、時限爆弾が静かに育っていくのです。

ジェンガというゲームをご存じでしょうか。積み木のタワーから1本ずつ棒を抜いていく遊びです。会社も同じで、抜けても平気な棒と、抜いた瞬間にタワー全体が崩れる棒があります。属人化とは、「崩れる棒」が増えていくことなのです。

たった一人が抜けると、積み上げた塔がぐらつく——それが属人化です。
たった一人が抜けると、積み上げた塔がぐらつく——それが属人化です。

爆発の日は、ある日とつぜん来る

時限爆弾が爆発する日は、予告なしにやって来ます。

ベテランの急な退職。入院。ご家族の介護での引っ越し。どれも、悪いことをしたわけではない、ごく普通の人生の出来事です。でも会社にとっては、「金庫の暗証番号を知る人」が突然いなくなる日になります。

残された人は、想像以上に困ります。やり方が分からない仕事を前に、取引先への説明に追われ、最悪の場合は仕事そのものを断ることになります。「あの人がいたころは普通にできていたこと」ができない――これが、会社が止まるということです。

解決策は「特別な時間を作らないこと」

「では、ベテランのやり方をマニュアルにまとめよう!」――そう考えて、会議室にベテランを呼び、書類を書かせようとした会社は多いと思います。そして、だいたい失敗します。

現場で忙しい人に「仕事を止めて文章を書いてください」は、無理な注文だからです。おばあちゃんの漬物の味を「レシピに書いて」とお願いしても、「そんなの、勘だよ」と笑われてしまうのと同じです。

コツは、特別な時間を作らないこと。書かせるのではなく、いつものおしゃべりの延長で「話してもらう」ことです。

「会社のおまもり」は、話し相手がAIです。「その機械、動かすときのコツはありますか?」と聞き上手に質問して、話した内容を自動で「会社の取扱説明書」にまとめていきます。書く作業は、人間はやらなくていいのです。

一人の頭の中を、チーム全員の財産に。抜けても崩れなくなります。
一人の頭の中を、チーム全員の財産に。抜けても崩れなくなります。

社長ご自身が、会社でいちばんの「あの人」です

ここまでベテラン社員の話をしてきましたが、実は小さな会社でいちばん属人化しているのは、社長ご自身です。

取引先との約束ごと、お金の流れ、パスワードの保管場所、「あの人にはこう話すとうまくいく」という人付き合いのコツ。会社の背骨にあたる情報は、ほぼすべて社長の頭の中だけにあります。

だからこそ、まず社長から始めてみてください。1日5分、今日あったことや思い出したことをAIにしゃべるだけ。それが、金庫の合鍵を1本ずつ増やしていく作業になります。

時限爆弾は、爆発する前なら、ゆっくり解体できます。そして解体作業は、思っているより簡単です。何しろ、しゃべるだけですから。

今日からできる、時限爆弾の見つけ方

最後に、自分の会社の「崩れる棒」を見つける簡単な方法をお伝えします。想像するだけでできます。

質問1:明日、自分が1か月入院したら、止まる仕事はどれですか?
質問2:いちばん長く働いてくれている人が来月退職したら、困る仕事はどれですか?
質問3:「あの人に聞かないと分からない」と、この1週間で言った(聞いた)ことは何ですか?

頭に浮かんだ仕事が、あなたの会社の時限爆弾です。たいてい3つや4つ、すぐに浮かびます。それが普通なので、落ち込む必要はまったくありません。浮かんだものから順番に、話して残していけばいいだけです。

ベテランに話してもらうときは、声のかけ方にちょっとしたコツがあります。「マニュアルを作るから協力して」と言うと身構えられますが、「◯◯さんのやり方、すごいからちょっと聞かせてよ」だと、たいてい喜んで話してくれます。人は、教えたがりの生きものです。その話を録音するなり、隣でAIに話し直すなりすれば、それでもう財産の完成です。

爆弾の解体は、1日1本ずつで大丈夫。大切なのは、爆発する日より前に始めることだけです。

会社を長く続けるというのは、結局のところ「誰かが欠けても倒れない形」に少しずつ育てていくことなのだと思います。属人化は敵ではなく、がんばってきた証拠。あとはその証拠を、みんなで使える形に変えていくだけです。その第一歩が、今日の5分のおしゃべりです。

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この記事を書いた人

創業45年になる有限会社クリンシアの2代目代表。マットモップレンタル事業、ビルメンテナンス清掃事業、家庭用洗剤、次亜塩素酸水製造販売事業、ナノテックシステム導入支援事業、清掃用具関連販売事業、清掃業務に関するコンサルティング事業などをしています。 また飲食店事業としてテイクアウトカフェの運営も行っています。

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