「エアコンクリーニング、1台いくらにすればいいですか?」
開業したての方からも、何年もやっている方からも聞かれる質問です。そして多くの人が、こう決めています。「近所のチラシが11,000円だったから、うちは10,000円で」——。
気持ちはわかります。でも、この決め方には大きな穴があります。隣の会社の値段は、隣の会社の事情で決まっているからです。移動距離も、保険も、作業の丁寧さも、生活費も違う会社の値段を写しても、あなたの会社が食えるかどうかとは何の関係もありません。
今日は、エアコンクリーニングを題材に、相場と原価の両方から値段を組み立てる、値付けの基本の話をします。
まず相場観: 世の中の値段には「理由」がある

エアコンクリーニング(壁掛け・通常タイプ)の世間の相場は、ざっくり8,000円〜14,000円あたりに分布しています。大手フランチャイズは12,000円前後、個人の格安業者は7,000円台、お掃除機能付きはどこもプラス5,000〜8,000円——。
大事なのは、この幅の「理由」を読むことです。安い業者は、広告費をかけず、保険が薄く、1日に多くの台数を回す前提の値段。高い業者は、養生や仕上げに時間をかけ、保証をつけ、教育されたスタッフを送る値段。値段の差は、だいたい中身の差なんです。
だから「相場より安くする」と決めるのは、「中身も相場より削る」と宣言するのと同じこと。相場は「いくらにするか」の答えではなく、「その値段ならどんな中身が期待されるか」を知るための地図として使います。
次に原価: 1台の作業に、本当はいくらかかっているか

では、あなたの会社の1台あたりの原価を数えてみましょう。「洗剤代くらいでしょ?」と思った方、ここからが本番です。エアコン1台10,000円の作業の裏側を、ぜんぶ並べます。
- 作業時間: 現場作業90分。でも本当は、移動30分+搬入養生・搬出30分+報告や記録10分で、実質160分
- 材料費: 洗剤・リンス剤・養生材・ウエス類で500〜800円
- 車両費: ガソリン、駐車場、車の維持費の按分で1件数百円
- 保険・保証: 損害保険の年額を件数で割ると1件あたり100〜300円。故障時の対応コストも見込む
- 集客費: チラシや広告で取った仕事なら、1件獲得にかかった広告費(これが数千円のことも)
- 営業・事務の時間: 見積もり、日程調整、請求。1件30分は消えています
仮に材料・車両・保険で1,500円、集客費ゼロ(紹介やリピート)だとしても、拘束時間は移動込みで約3時間。10,000円-1,500円=8,500円を3時間で割ると、時給約2,800円。ここから自分の社会保険や税金、道具の買い替え、閑散期の無収入月を賄うわけです。個人事業の「時給2,800円」は、会社員の時給の感覚よりずっと薄い——ここまで数えて初めて、「10,000円は安すぎないか?」という問いが立ち上がります。
格安の7,000円業者と同じ値段で、丁寧な養生と保険と保証をつけたら、計算上は働くほど貧しくなる。値付けとは、気合いではなく算数の問題なのです。
値段の決め方: 「原価から積む」+「価値を乗せる」
手順としては、こうなります。
手順1: 最低ラインを原価から出す。「1件あたりの経費+確保したい人件費(時給換算×拘束時間)」。これを下回る値段は、どんなに仕事が欲しくても受けない防衛ラインです。
手順2: 相場の地図の上に自分を置く。自分の中身(保険・養生・保証・実績・専門性)は、相場のどのあたりの「中身」に相当するか。安売り業者と同じ中身なら安い値段しか付きませんが、大手並みの中身なら大手並みの値段を付けていい。中身が値段を連れてくるのであって、逆ではありません。
手順3: 差額を説明できるようにしておく。「うちは完全養生・損害保険・1週間の手直し保証込みでこの値段です」。この一文が言えるなら、相場より2割高くても選ばれます。言えないなら、値段の前に中身を作るのが先です。
「お掃除機能付き」と「複数台割」の考え方
エアコン特有の論点も2つだけ。
お掃除機能付きの追加料金は、遠慮なくいただく。分解の手間は通常機の1.5〜2倍。プラス5,000円以上が相場ですし、それだけの作業実態があります。ここで遠慮すると、面倒な機種ほど損をする逆転現象が起きます。受付時に機種の確認を徹底するのが、この値付けの前提です(お客様は自宅のエアコンにお掃除機能が付いているか、たいてい知りません。型番を聞くか写真を送ってもらいましょう)。
複数台割は「2台目から」が合理的。移動と搬入養生は1回で済むので、2台目以降の原価は本当に下がります。「1台12,000円、2台目からは10,000円」は、値引きではなく原価に忠実な価格です。お客様にもそう説明でき、客単価も上がる。数少ない「双方が得する割引」です。
既存のお客様への値上げは、「お知らせの1枚」で
新規客から新価格に切り替えたあと、いずれ既存のお客様の番も来ます。ここは黙って請求額を変えるのが一番の悪手。事前のお知らせ1枚で、驚くほど円満に進みます。文例を置いておきます。
「いつもご利用いただき、誠にありがとうございます。誠に恐縮ですが、洗剤・資材や燃料費の値上がりが続いており、これまでの品質を保つため、◯月のご依頼分より料金を改定させていただくことになりました(エアコンクリーニング ◯◯円→◯◯円)。今後もこれまで通り、丁寧な作業でお応えしてまいります。何卒ご理解のほど、お願い申し上げます。」
ポイントは、①理由を正直に書く ②「品質を保つため」という約束の形にする ③実施まで1〜2か月の猶予を置く、の3つ。長い付き合いのお客様は、値段ではなくあなたを選んでいます。誠実なお知らせで離れるお客様は、ほとんどいません。
値段は、あなたの仕事への「自己紹介」
最後に。値段には、金額以上のメッセージが乗ります。安すぎる値段は「うちの仕事はこの程度です」という自己紹介になり、その値段に見合ったお客様と、値引き交渉と、疲弊を連れてきます。
原価を数え、中身を作り、堂々とした値段を付けて、その値段の理由を説明する。そして作業記録と原価の記録を残して、年に一度、値段を見直す。値付けは一度きりの決断ではなく、毎年育てていく経営の習慣です。隣のチラシではなく、自分の数字から始めてください。


